「タワー・オブ・テラーって、ただ落ちるだけのアトラクションでしょ?」
そう思って乗っているとしたら、あなたはこの物語の半分も知らないことになります。
このアトラクションの核心には、「なぜハイタワー三世は消えたのか」「シリキ・ウトゥンドゥとは何か」「なぜ呪いは避けられなかったのか」という、ディズニーの中でも屈指の重厚なバックグラウンドストーリーが存在します。
今回はハリソン・ハイタワー三世という人物を軸に、タワー・オブ・テラーの物語を完全解剖します。
ハリソン・ハイタワー三世とはどんな人物か
ハリソン・ハイタワー三世は、1835年にアメリカ・ニューヨークで生まれた大富豪です。父であるハリソン・ハイタワー・ジュニアが1828年に設立した「ハイタワー&カンパニー」(後の「ハイタワー・インダストリーズ」)を継ぎ、やがてニューヨーク一の富豪となりました。
しかし彼は単なる実業家ではありませんでした。世界各地を冒険し、文化的遺産の熱狂的なコレクターでもありました。エジプトの石像、アジアの武具、中東のタペストリー、アフリカの秘宝……手段を選ばず世界中から珍しいものを集め、それをホテルに展示することに人生をかけた人物です。
ただし、その収集方法は決してフェアではありませんでした。頭脳明晰である一方、利己的かつ傲慢な性格で、欲しいものは脅しや騙しを使ってでも手に入れる——それがハイタワー三世という人間の本質でした。
実はモデルになった実在の人物がいる
ハイタワー三世には実在のモデルがいます。
ウォルト・ディズニー・イマジニアリングのエグゼクティブデザイナー兼副社長を務めたジョー・ロード氏です。タワー・オブ・テラーの建設に深く関わったロード氏の風貌を参考に、ハイタワー三世のビジュアルが作られました。白いひげをたくわえた威厳ある顔立ちがそっくりだといわれています。
ホテルハイタワーはどうやって作られたか
1886年、ハイタワー三世は父から継いだ自宅をホテルに改装することを決意します。最初はロシアの著名な建築家オスカー・キルノフスキーにデザインを依頼しましたが、キルノフスキーが提案したスタイリッシュなデザインが気に入らず激怒し、即座に解雇。
自己顕示欲が強く他人の意見を聞かないハイタワー三世は、自分でデザインを決めることにしました。結果として生まれたのが、世界各地の探検で得た経験を詰め込んだ、さまざまな建築様式が混在した独自のホテルです。
ゴシック様式、イスラム風、インド風、ヒンドゥー風——一棟のホテルにこれほど多様な建築様式が混在するのは世界的に見ても異例です。これはハイタワー三世が「自分の偉大さを世界中の文化で表現したかった」から。つまりホテル全体が彼の傲慢さの象徴なのです。
1892年、高さ59メートル・14階建てのホテルハイタワーが完成しました。建設には膨大な費用がかけられましたが、その収入を得ることは最初から不可能でした。実はこのホテルの運営にはニューヨーク市民の税金が使われていたという衝撃の事実があります。つまりハイタワー三世は自分の財産を一切減らさずに市民の税金でホテルを運営していたのです。
ホテルの外観は先代の邸宅を含んでいる
ホテルハイタワーの外観を正面から見たとき、屋根が三角形になっている部分があります。実はあの部分は先代ハイタワー二世が建設した邸宅がそのまま残ったものです。ハイタワー三世がホテルを建設する際に改装し、玄関口として使用しています。つまりホテルは最初から「全部ハイタワー三世が建てた」わけではないのです。
紋章とステンドグラスに込められた「支配の哲学」
ホテルハイタワーの正面玄関をよく見ると、紋章が飾られています。両脇の2つの「H」はハリソン・ハイタワーの頭文字。中央には地球があり、剣が刺さっています。その下にはラテン語で「MUNDUS MEA OTSREA EST(世界は吾輩の牡蠣である)」と書かれています。
これだけでは意味がわかりにくいですが、入口上のステンドグラスを見るとすべてが繋がります。そのステンドグラスには地球の上に立ち世界を見下ろすハイタワー三世の姿が描かれており、周囲にはシェイクスピアの戯曲『ウィンザーの陽気な女房たち』から引用した言葉があります。
「この世は牡蠣のようなもの。私の剣で貝を開いてみせよう」
つまり「世界など、剣さえあれば牡蠣を開くように意のままに支配できる」という傲慢な宣言です。ステンドグラスの杖がニューヨークを指しているのは、自分の拠点であるニューヨークから世界を支配するという意志の表れ。ロビーの暖炉には肖像画が飾られており、その下をよく見ると脚だけになった別の銅像が……どうやら誰かの像を壊して自分の肖像画を置いたようです。
また、暖炉のロビーには漢字で「高塔」という文字があります。「高(high)」「塔(tower)」——ハイタワーをそのまま漢字で表したシャレです。
ライバル・エンディコット三世との確執
ニューヨークには、ハイタワー三世と並ぶもう一人の実力者がいました。豪華客船S.S.コロンビア号を所有する「U.S.スチームシップカンパニー」のオーナー、コーネリアス・エンディコット三世です。
2人の確執は深く、祖父の代から続く犬猿の仲でした。ハイタワー三世は幼少期から頭はいいが粗暴で、エンディコット三世が関わった事件をきっかけに学校を退学になった過去まであります。
エンディコット三世は「ニューヨーク・グローブ通信」という新聞社も所有しており、その影響力でハイタワー三世を公の場で批判することもありました。ホテルハイタワーを取り壊して自分の名を冠した「エンディコット・グランド・ホテル」を建設しようと目論んだほど、ハイタワー三世への執念は強いものでした。
面白いことに、後にニューヨーク市保存協会を設立してホテルの保存に動くベアトリス・ローズ・エンディコットは、このエンディコット三世の娘です。父はホテルを壊そうとし、娘はホテルを守ろうとする——この親子の対立もまた、物語を複雑にしている要素のひとつです。
シリキ・ウトゥンドゥとは何か
物語の核心となる呪いの偶像、シリキ・ウトゥンドゥ。その名前はムトゥンドゥ族の言葉で「災いを信じよ」という意味を持ちます。
この偶像は約200年前に生きていた強力な魔力を持つシャーマンが元になっています。周囲の者たちが彼の死後、その魂を残すための器として作った偶像がシリキ・ウトゥンドゥです。偶像の腹部の小さな頭骸骨には、そのシャーマンの遺骨が納められています。
シリキ・ウトゥンドゥには8つの掟がある
この偶像には、所有者が守らなければならない厳格な掟が存在します。
- 崇拝すること
- 燃やさないこと
- 閉ざされた場所にしまわないこと
- おろそかにしないこと
- 馬鹿にしないこと
- 他人に渡さないこと
- 放置しないこと
- 恐れること
これが8つの掟です。
掟を守る者には絶対の守護を、破る者には呪いをかける。それがシリキ・ウトゥンドゥの力です。
ムトゥンドゥ族は「強奪させた」のかもしれない
ここに驚くべき事実があります。ハイタワー三世はムトゥンドゥ族を「脅して強奪した」と思っていましたが、実はムトゥンドゥ族の側がわざと強奪させた可能性があるのです。
呪いの偶像を「他人に渡してはいけない」という掟がある以上、ムトゥンドゥ族は自ら手渡すことができません。しかし「強奪された」形であれば呪いの責任は奪った者にいく——つまりムトゥンドゥ族はハイタワー三世に強奪するよう誘導し、呪いを押し付けたのかもしれないのです。ムトゥンドゥ族が逃げずに追ってこなかったのもそのためだと、執事スメルディングは後に気づきます。
1899年大晦日——失踪事件の全貌
1899年12月31日。ハイタワー三世はコンゴ遠征からの帰還を祝うパーティーと、新年を迎えるニューイヤーパーティーを盛大に開催しました。
昼の記者会見では、持ち帰ったシリキ・ウトゥンドゥを世間にお披露目します。記者から「それは呪いの偶像だと言われていますが?」と質問されると、ハイタワー三世は「呪いの偶像だと?馬鹿馬鹿しい!」と一笑に付しました。さらに吸っていた葉巻の火を偶像の頭に押し付けるという暴挙にまで出ています。これは「燃やさないこと」という掟の明確な違反です。
パーティーの夜が深まり、日付が変わる直前。ハイタワー三世はシリキ・ウトゥンドゥを手にして、ホテル最上階の自室へ戻るためエレベーターに乗り込みました。
深夜0時ちょうど——ホテルに緑色の雷が落ちたと目撃者は証言しています。ホテルは停電し、エレベーターは制御不能となって落下。壊れたエレベーターの中には無傷のシリキ・ウトゥンドゥとハイタワー三世のトルコ帽だけが残されており、ハイタワー三世本人は姿を消していました。
パーティー客の証言には「ハイタワー三世の絶叫を聞いた」「ホテルから緑色の閃光が放たれるのを見た」というものもあります。事件後、ニューヨーク市消防署はホテルハイタワーの閉鎖を決定。こうしてかつての豪華ホテルは「タワー・オブ・テラー(恐怖のホテル)」と呼ばれるようになりました。
登場人物たちの知られざる役割
執事アーチボルト・スメルディング
ハイタワー三世の忠実な執事にして唯一の友人ともいえる人物。20ヶ国語以上を操り、執筆や描画も得意とする多才な人物で、ハイタワー三世の探検にも常に同行していました。シリキ・ウトゥンドゥの呪いを誰よりも恐れ、主人に警告し続けましたが、結局聞き入れられませんでした。
ハイタワー三世の失踪後は行方不明となっていますが、実は約10年間にわたってハイタワー三世を救うために密かに動いていたことが後に明らかになっています。ロビーの絵画や掲示板のスクラップ記事に彼の姿を見ることができ、Qライン内の描きかけの絵もスメルディングが描いたものとされています。
記者マンフレッド・ストラング
「ニューヨーク・グローブ通信」の記者で、記者会見でシリキ・ウトゥンドゥの呪いについて執拗に質問しハイタワー三世に追い出された人物です。しかし諦めずにウェイターに変装してホテルに潜入し、エレベーター落下事故を目撃した数少ない人間のひとりになりました。
ベアトリス・ローズ・エンディコット
エンディコット三世の娘でありながら、幼少期にハイタワー三世の冒険物語を読んで以来の大ファン。父がホテルを壊そうとするのを阻止するため、「ニューヨーク市保存協会」を設立しました。ゲストが参加するミステリーツアーはまさにこの協会が主催するもの。タワー・オブ・テラーのキャストはこの保存協会のスタッフという設定です。
東京ディズニーシー版だけの独自ストーリー
実はタワー・オブ・テラーのアトラクション自体は、アメリカ・フロリダのディズニー・ハリウッド・スタジオにも存在します。しかしあちらはテレビドラマ「トワイライトゾーン」の世界観をベースにしており、ハイタワー三世は登場しません。
東京ディズニーシー版は完全にオリジナルのストーリー・音楽・建物デザイン・ライドシステムが採用された、世界で唯一の独自バージョンです。アメリカンウォーターフロントという1912年のニューヨークを舞台にしたエリアの世界観に合わせて一から作られており、その作り込みの深さはディズニーのアトラクションの中でも特別な位置を占めています。
2006年9月4日のオープンに際しては210億円が投じられました。東京ディズニーリゾート初のフリーフォール型アトラクションとして、今もパークを代表する絶叫アトラクションであり続けています。
ホテルのQラインで見つけられる隠し演出
タワー・オブ・テラーのQライン(待機列)は、それ自体が博物館のような作り込みになっています。
ロビーに飾られた10枚の絵画はハイタワー三世の探検旅行を描いたもので、その絵画の中のコレクションが実際にホテルの裏庭や秘密の倉庫に存在するという設定になっています。エジプト関連のコレクション、アジアの武具、描きかけの絵など、ひとつひとつに入手経路や年代が設定されており、ただの装飾ではありません。
また、書斎に置かれている蓄音機から流れる記者会見の録音は、シリキ・ウトゥンドゥが持ち出された日の昼の出来事を再現したもの。あの音声をじっくり聞くと、ハイタワー三世がどれほど傲慢に呪いを馬鹿にしていたかがリアルに伝わってきます。
さらにホテルの外観や内装の随所に「隠れシリキ」と呼ばれる、シリキ・ウトゥンドゥが暗示された装飾が点在しています。建物の一部に偶像のような顔が隠されていたり、ステンドグラスや壁画の中にシリキの姿が潜んでいたり——待ち時間に建物を細かく観察するだけで十分楽しめます。
まとめ|ハイタワー三世は「傲慢さの末路」を体現している
ハリソン・ハイタワー三世という人物を知れば知るほど、タワー・オブ・テラーというアトラクションが「ただ落ちるだけの乗り物」ではないことがわかります。
- ハイタワー三世のモデルはディズニーイマジニアのジョー・ロード氏
- ホテルはさまざまな建築様式の混在で「傲慢さ」が建物に表れている
- 紋章とステンドグラスに「世界を牡蠣のように支配する」という哲学が刻まれている
- ホテルの運営費はニューヨーク市民の税金だった
- シリキ・ウトゥンドゥには8つの掟があり、ハイタワー三世はほぼすべてを破った
- ムトゥンドゥ族はわざとシリキを「強奪させた」可能性がある
- 東京ディズニーシー版は世界で唯一の完全オリジナルストーリー
- 建設費210億円が投じられたパーク開園5周年の目玉アトラクション
次にタワー・オブ・テラーに乗るときは、エレベーターに乗り込む前にステンドグラスを見上げてみてください。「この世は牡蠣のようなもの」と信じて疑わなかった男の最後を知ってから落下すると、あの緑の閃光の意味がまったく違って見えるはずです。


コメント