- 「シンドバッドって、待ち時間5分の暇つぶしアトラクションでしょ?」
ディズニーシーに詳しい人ほど、この言葉に怒ります。
実はこのアトラクション、「なぜアラビアンコーストにシンドバッドが存在するのか」「なぜ一度も映画化されていないオリジナルキャラクターなのか」「本当の宝物とは何か」「バナナのにおいがする理由」など、知れば知るほど奥深いポイントが山積みなのです。
Dオタ(ディズニーオタク)の間では「シンドバッドが好きじゃない人はいない」とまで言われる理由がここにあります。今回はシンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジを完全解剖します。
そもそもなぜアラビアンコーストに「シンドバッド」がいるのか
ディズニーシーのアラビアンコーストといえば、映画『アラジン』の世界観をベースにしたエリアです。ではなぜ、アラジンでもジャスミンでもなく、「シンドバッド」というアラジンとはまったく無関係のキャラクターが主役のアトラクションがあるのでしょうか?
その答えはアラビアンコースト全体のバックグラウンドストーリーにあります。
かつてこのエリアはただの砂漠でした。ある日、ジャスミンの父・サルタン国王が偶然魔法のランプを見つけ、ジーニーを呼び出しました。感激したサルタン国王は3つの願いを叶えてもらいます。
1つ目の願いは「アラジンとジャスミンをここに呼んでお祝いをしたい」。2つ目の願いは「アラビアンナイトの物語に出てくるような、魔法と興奮に満ちた世界を国民に体験させてあげたい」。ジーニーはこの願いを叶えるために魔法を使い、交易が盛んな港、活気ある市場、美しい宮殿の中庭という3つのエリアを作りました。これがアラビアンコーストの誕生です。
「アラビアンナイトの物語に出てくるような世界」——シンドバッドの冒険もまた、『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』を代表する物語のひとつです。だからこそ、シンドバッドがアラビアンコーストの港エリアの主役として設置されているのです。
ではサルタン国王の3つ目の願いは何だったのか?感謝したサルタン国王は「最後の願いはジーニー自身が好きなものをこの街に作ってほしい」とジーニーに譲りました。ジーニーが考えた末に作ったのが「マジックランプシアター」です。つまりマジックランプシアターは、ジーニーが自分の意志で作った施設という設定なのです。
シンドバッドはディズニーオリジナルキャラクター
多くの方が知らない重要な事実があります。東京ディズニーシーに登場するシンドバッドとチャンドゥは、ディズニーが東京ディズニーシーのために独自に作り上げたオリジナルキャラクターです。
「シンドバッドの冒険」自体はアラビアンナイトの古典的な物語ですが、ディズニーはその物語を原案に、まったく新しいビジュアルとストーリーを持つシンドバッドを生み出しました。相棒の子トラ・チャンドゥも同様に完全なオリジナルです。
映画化はされておらず、世界でここでしか会えないキャラクターというのがシンドバッドとチャンドゥの最大の特徴です。だからこそ、このアトラクションに乗ることがシンドバッドの世界に触れる唯一の機会になっています。
シンドバッドは15歳の少年という設定です。「大人の英雄」ではなく、まだ少年らしい純粋さと勇気を持つキャラクターとして描かれており、それが物語全体の温かみにつながっています。
前身「シンドバッド・セブンヴォヤッジ」との違い
現在の「シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ」は、2001年の東京ディズニーシー開園当初から存在したアトラクションではありません。最初に存在したのは「シンドバッド・セブンヴォヤッジ」という別のアトラクションで、2007年3月29日のリニューアルによって現在の形になりました。
リニューアル前のシンドバッドはキャラクターが真逆だった
リニューアル前のシンドバッドは、現在のシンドバッドとはまったく異なる性格の人物でした。チャンドゥという相棒もおらず、鳥の卵を勝手に食べたり、巨人を怒らせたりするなど、むしろ問題を起こす側のキャラクターとして描かれていました。いたずら者でトラブルメーカーな少年——というイメージです。
リニューアル後のシンドバッドは、人魚に助けられ、ルクの雛を守り、巨人を助け、猿たちと音楽で心を通わせる——「誰かを助けることで宝物を手に入れる心優しい少年」へと大きくキャラクターが変わりました。
また、リニューアル前は歌がなくBGMとセリフのみでアトラクションが構成されていました。現在のシンドバッドの魅力の核心である「コンパス・オブ・ユア・ハート」は、2007年のリニューアル時に新たに追加された曲です。
さらにリニューアル前はQラインが現在よりもはるかに長く、「ジャスミンのフライングカーペット」のエリアもQラインの一部だったといわれています。リニューアル後にそのQラインエリアが独立して、現在のジャスミンのフライングカーペットのエリアになったのです。
基本のバックグラウンドストーリー
アトラクション自体のストーリーを整理しましょう。
舞台は、シンドバッドの故郷の港町「バズラ」。15歳の少年シンドバッドは、相棒の子トラ・チャンドゥとともに「かけがえのない宝物を探す旅」に出発します。
出発前、長老から「心のコンパスを忘れるな」と忠告されます。地図も持たず、ただ「心のコンパス」だけを頼りに未知の海へ漕ぎ出すシンドバッド——これがアトラクションの出発点です。
ゲストはそのシンドバッドの船に同乗する形でアトラクションに参加します。出発時の港には「FAREWELL SINDBAD!(さらば、シンドバッド!)」と書かれた横断幕があり、町の人々総出でお祭り騒ぎの見送りをしている様子が再現されています。
航海の各シーンを徹底解説
① 嵐と人魚の救出
出発直後、シンドバッドの船は激しい嵐に見舞われます。このシーンではゲストの頭上にも実際に水が数滴落ちてくるという臨場感あふれる演出があります。「雨が降る」というリアルな五感演出が、ただ見るだけのライドではなく「旅に参加している感覚」を生み出しています。
嵐の中、美しい人魚たちがシンドバッドの船を救います。人魚たちが歌で嵐を鎮め、シンドバッドたちを助けるシーンです。
② ルクの島と盗賊との対決
次に辿り着いたのは「ルクの島」。ルクとは魔法の羽を持つ巨大な鳥で、雛鳥が生まれたばかりでした。しかし盗賊たちがそのルクの雛鳥を狙っています。シンドバッドとチャンドゥは盗賊たちと対決し、雛鳥を守り切ります。お礼に、ルクから魔法の羽を受け取ります。
③ 巨人の救出
続いて、盗賊たちに囚われていた巨人を救出します。この巨人は黄金の財宝を持ち、ララバという楽器を弾くのが得意という設定です。シンドバッドに助けられた巨人は、大切にしていた財宝をシンドバッドに贈ります。
④ インドのサルタンと猿たち
インドのサルタン王から「乱暴者の猿たちをなだめてほしい」と頼まれたシンドバッドは、楽器を差し出して猿たちと一緒に音楽を演奏することで心を通わせます。このシーンでは実際にバナナの香りが漂うという五感演出が施されています。猿とバナナという連想から生まれた、遊び心あふれる仕掛けです。ただし香りの演出は日によって出たり出なかったりするため、感じられたらラッキーです。
⑤ クジラに乗って帰還
旅の終盤、大きなクジラがシンドバッドの船を故郷バズラの港まで運んでくれます。帰還を待ちわびていた町の人々の歓声の中、シンドバッドは凱旋します。
「本当の宝物」とは何だったのか
アトラクションのテーマは「かけがえのない宝物を探す旅」でした。シンドバッドは旅の中で魔法の羽・巨人の財宝・魔法の楽器・猿たちのバナナなど数多くの宝物を手に入れます。では、シンドバッドが見つけた「本当にかけがえのない宝物」とは何だったのでしょうか?
その答えは、テーマソング「コンパス・オブ・ユア・ハート」の歌詞に明確に記されています。
「ついに見つけたよ宝物 宝石や黄金じゃなく 旅の中で巡り合った素晴らしい僕の友達」
シンドバッドにとっての「かけがえのない宝物」は、旅の中で出会い助け合った「友達」だったのです。だからこそシンドバッドは、もらった財宝や宝物をすべて港の町のみんなに分け与えていました。
物やお金ではなく、人との繋がりこそが人生で最も大切なもの——アラビアンナイトの冒険活劇の形を借りながら、このアトラクションはそんなシンプルで深いメッセージを伝えています。これがシンドバッドが老若男女を問わず、特にDオタに愛される理由のひとつです。
「コンパス・オブ・ユア・ハート」は世界屈指の作曲家が手がけた
シンドバッドのテーマソング「コンパス・オブ・ユア・ハート」は、アラン・メンケンが作曲しています。
アラン・メンケンとは、ディズニー映画の名曲を数多く手がけてきた伝説的な作曲家です。「ホール・ニュー・ワールド」(アラジン)、「アンダー・ザ・シー」(リトル・マーメイド)、「美女と野獣」など、誰もが知るディズニーの名曲の数々を作曲し、アカデミー賞を8回受賞しているという驚異的な経歴の持ち主です。
そのアラン・メンケンがこのアトラクションのためだけに書き下ろしたのが「コンパス・オブ・ユア・ハート」です。ディズニー映画の主題歌と同等のクオリティを持つ楽曲が、アトラクション専用に作られたという事実——これは世界中のディズニーパークを見渡しても非常に稀なことです。
「コンパス・オブ・ユア・ハート」を聴くためだけに世界中からシンドバッドに乗りに来るファンがいるといわれているのも、この楽曲のクオリティを知れば納得できます。
歌っているのは劇団四季初代シンバ役の俳優
「コンパス・オブ・ユア・ハート」を歌い、シンドバッドの声も担当しているのは坂元健児さんです。坂元さんは元劇団四季の俳優で、在団時には「ライオンキング」の初代シンバ役を務めていました。退団後も「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」など数多くのミュージカル作品に出演しているミュージカル界の実力者です。
アラン・メンケンの楽曲と坂元健児さんの歌声が組み合わさることで、アトラクション内がまるでミュージカルの舞台のような雰囲気に包まれます。これが「シンドバッドは体験できるショーだ」と言われる理由です。
東京ディズニーシーで最も多くのオーディオアニマトロニクスが使われている
実はシンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジは、東京ディズニーシーのアトラクションの中で最も多くのオーディオアニマトロニクス(精巧なロボット人形)が使用されているアトラクションです。
リニューアル前の「シンドバッド・セブンヴォヤッジ」の時代から、すでにディズニーの中で最多のオーディオアニマトロニクスを使用していました。それほどこのアトラクションには、細かく動くキャラクターが至る所に配置されています。
「ゆっくり進むだけ」に見えて、実はその分だけ周囲の細部まで見る時間が与えられているのがシンドバッドの設計思想です。人魚の表情、ルクの雛鳥の動き、巨人が演奏するララバ——よく見ればどのキャラクターも細部まで丁寧に作り込まれています。
五感で楽しむ「嗅覚・触覚」の演出
シンドバッドは視覚と聴覚だけでなく、嗅覚と触覚にも訴えかける演出が組み込まれています。
まず触覚の演出として、嵐のシーンで実際に水が落ちてくるという仕掛けがあります。本当に海の上で嵐に遭っているような感覚を生み出す演出です。
次に嗅覚の演出として、猿のシーンでバナナの香りが漂うという仕掛けがあります。ただしこの香りは日によって漂う日と漂わない日があります。バナナのにおいがしたときは「今日はラッキーだ」と思って大丈夫です。
これだけ多様な感覚に訴えかける演出が詰め込まれているのに、「なんとなく乗ってなんとなく降りる」だけで終わってしまっているとしたら、本当にもったいないです。
「待ち時間5分」の意味
シンドバッドはアトラクションの待ち時間が非常に短いことで知られています。「待ち時間が15分を超えるとディズニーシーが混んでいるサイン」とまで言われるほどです。
しかしこの待ち時間の短さは、このアトラクションの価値の低さを意味しません。むしろ「何回でも乗れる」というメリットとして捉えることができます。
1回目は全体のストーリーを把握しながら乗る。2回目は音楽に集中して乗る。3回目は香りや水の演出を意識して乗る。4回目は各キャラクターのオーディオアニマトロニクスの動きを細部まで観察する——知れば知るほど、何度乗っても新しい発見があるのがシンドバッドです。
まとめ|シンドバッドは「知っている人だけ」が本当の価値を知っているアトラクション
シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジが「Dオタに99%愛される」理由が、これだけの情報を知ればわかると思います。
- アラビアンコーストはサルタン国王のジーニーへの3つの願いから生まれたエリア
- シンドバッドとチャンドゥは東京ディズニーシーのためだけのオリジナルキャラクター
- リニューアル前は真逆のキャラクター設定で、歌もなかった
- 「コンパス・オブ・ユア・ハート」はアカデミー賞8回受賞のアラン・メンケンの書き下ろし
- 歌唱は劇団四季「ライオンキング」初代シンバ役・坂元健児さん
- 東京ディズニーシーで最も多くのオーディオアニマトロニクスを使用
- 嵐シーンの水、猿シーンのバナナの香りという五感演出がある
- 本当の宝物とは「友達」であることが歌詞で明かされている
次にシンドバッドに乗るときは、ぜひ「コンパス・オブ・ユア・ハート」の歌詞に耳を澄ませながら、シンドバッドが何を大切にしていたのかを感じてみてください。そして猿のシーンでは深呼吸してバナナの香りを確認してみてください。
きっと「もう一回乗りたい」と思うはずです。


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